・盲導犬とのであいから

私が盲導犬の貸与を受けたのは、昭和60年冬の事でした。失明してから20年余り全く一人歩きが出来なかった私にとって、「ラブ」という名前のその犬との生活は夢のように便利で楽しいものでした。時には私の不注意で道に迷ったり、タクシーの乗車拒否やレストランでの入店拒否など辛いこともありましたが、人の手を借りずに歩けることが嬉しくて必要以上にスーパーへ買い物に行ったり、家の近くを毎日小鳥のさえずりを聞きながらの散歩は一番心が和むときでした。あっというまの10年間でした。大切なラブの眼に白内障が出てきて、耳も遠くなり足腰が弱くなって、散歩の途中で帰りたがるようになりました。衰えは日に日にましてゆき、そして最後の悲しい別れ。「こんなに悲しい別れがあるからもう盲導犬はやめよう」と決めたのでした。

その後、私の住む町にはボランティアの方が多くなり、ガイドヘルパーの制度も充実して、生活にはあまり不自由は無くなったのですが、もしも最寄の駅まで一人で行くことが出来たなら、沿線に住む友達とももっと自由に遊びにも行けるのにと思い、さしあたり歩行訓練をしていただく方を訪ねて名古屋まで行っ

たのですが費用の面でうまく行かず迷っていたとき、宮本治子さんが歩行訓練士になる為に勉強に行かれるとお聞きし、私は待ちました。そして私は宮本さんの訓練生にして頂いたのです。単独歩行の練習中、宮本さんに教わった通りに杖を持つと不思議に真っ直ぐ歩けるのです。でも一方注意が散漫になると道路脇の大きな木に「ドカーン」。「杖の使い方が正しければ絶対にぶつかったり落ちたりすることはない」という事を初めて学びました。念願だった最寄の駅までの単独歩行は思ったより早く約9回の練習でマスターでき、訓練最後の日、宮本さんが帰られたら何故か不安で寂しくて。悩んだ挙げ句いつまでも私を見守って下さる宮本さんの写真と、楽しい日々を過ごさせてくれたラブの写真、それに歩行訓練最初の日にかつてのクラスメイトが届けてくれた神社のお守りを三点セットにして持って歩くことにしました。すると何故か自信と勇気が湧いてくるのです。以来この三点セットは外出時の必需品となりました。

あれから2年間。ラブと歩いたときのように小鳥のさえずりを楽しみながらというゆとりはなく、白杖に全神経を集中させて歩くのですが、さしたるトラブルもなくわが家にたどり着いた時は、本当に満ち足りた気分になります。

歩行訓練を受けて一番良かった事は、何時でも自由な時間に外出して、自由な時間に帰ってこられるという事です。人一倍勘の悪い私をここまで歩けるようにご指導下さった宮本さんに心から感謝しております。



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